“ある時期、ある年代のときは、毎日本当にまじめに走らなければいけない。……走り込むべき年代は人それぞれ違うけど、「今は走らなくちゃ」とはっきり決意するときがあるはず。そういうときは無理しても走らないといけない” 年明けの決意は忘れていない。はじ…
聖璽、という名はおぼえていた。本を買ったのはたしか中学一年生のころだったから、青春を存分に謳歌していた時期だ。そういう人間にとって、対照的なこの鬱屈とした世界はまるで、別次元のおはなしとして目に映る。だから当時、おもしろいという感想は、と…
ひとりぼっちの空間にいると、だんだん、自分とまわりとのあいだにみえない壁ができるようになる。大学受験の夏、わたしはなんだかすべてがいやになってしまったので、おうちからちっとも、出なくなった。まるでこの本の寺子のように、ねむっては起き、ねむ…
「君は君自身を太宰治と並べるなんてどうかしている。彼はたしかに偉大な小説を書き、この世に残した。しかし、君はどうだい。何ひとつ残してさえいないじゃないか!」 幼いころは夢ばかりみていた。世界はいつでも眩いひかりに包まれていて、わたしは自由に…
そうか。「さびしさは鳴る」のか、と。たしかにそうだったかもしれない。クラスのなかで孤立する、というのは。けれどわたしは、あのころのわたしは、そんなにもまっすぐ、現実を感じとることができていただろうか。いつでもかき消していたようにおもう。た…
この器が邪魔だ、とおもうことがある。きもちがどれだけ急いていても、身体はちっとも動いてくれない。頭痛、腹痛、しまいには発熱など、あらゆる手段を用いて、身体はわたしの活動を阻害する。気力で対抗しようとすると、今度は魂を器の外に押し出そうとし…
“無責任な他人のいうことを一々気にしていたら、人間は落ちついて生きてゆけない。自分をいつわって生きてゆくのには、世間や他人を信用していない。” 惹きこまれる。ただ、はなしを黙ってきいてあげたい。ここまで声高らかに宣言するに至るまで、彼はどれほ…
淡々としている、という表現がいちばんしっくり来る。要点だけをおさえ、物語の展開を読者が理解できる程度に、説明がなされている。いかにもラノベっぽい表紙ではありながら、それにしてはあまりに平坦な文章なので、そのギャップに驚く読者もすくなくない…
ていねいになでつけた白髪、折り目正しいワイシャツ、灰色のチョッキ。高校時代に国語をおそわったけれど、さして熱心に授業をきいたわけではない。「先生」でも、「せんせい」でもなく、センセイ。それは数ねんまえ、たまたま駅まえの飲み屋でとなりあわせ…
いつからかこう考えるようになった。“がんばらないわたしはわたしであってはならない。がんばることだけにわたしの価値があるのだ。”いまおもえばとても極端な発想だけれど、わたしは大真面目に、この原則に従い生きてきた。 わたしのなかのがんばる、とは、…
ゆあーんゆよーんゆやゆよん。ぶらんこのようにゆらゆら揺れる、あっちの世界と、こっちの世界。きょうはふらり境界線に足をかけ、誘われるよう視線をおとした。いしいしんじ。ひらがなが、とても美しい。 なんとなく手に取り、本を開く。漢字ほどぎゅうぎゅ…
わたしにはみえなかった。だって、あなたが身体をぐるぐると鎖で縛られ、何十キロもある足かせを引きずりながら歩いている姿なんて、想像もできなかったんだもの。 むしろ、いつでも自由にみえた。あなたは、働かない。外出だって、ほとんどしない。ふだんは…
72ページから突然はじまったものがたりに、わたしはびくり、目をさました。せっかくおひるすぎの電車に揺られうとうときもちよくなってきたのに、それまでぼんやりと追っていた字面が突如、はっきりと、文章となり、ことばとなって、わたしに迫ってきたから…