未題

800字のコラム

水島広子『ダイエット依存症』

 摂食障害とは、体型や体重という「形」にとらわれる病気である。こと「形」へのとらわれにかんしていえば、摂食障害になる背景には「ありのままの姿で自分を肯定された経験が乏しい」という問題があり、これにより培われたトラウマによってダイエットという「強迫行為」に依存する、まさに「とらわれ」の病理であるということができる。
 身近なところに批判的なひとがいると、人間はのびのびと、ありのままの自分を表現することができない。これは批判という形をとらないとしても、親の不安が強く、植えつけられた罪悪感のために、親を支える役割を引き受けて育った場合などにも見受けられる。たとえば、「~なら愛情を持つ」という「条件つきの肯定的関心」である。
 ひとが「コントロール感覚」を持つためには、「自分」をある程度肯定していることが必要となる。しかし、「無条件の肯定的関心」を向けられることのなかった人間には、「本質的な肯定感」ともよべる「自尊心」が乏しく、自分についての不確かさを抱えたまま生きていくことになってしまう。

 摂食障害を治療するにあたっては、その癒しの本質は対人関係にあると考えられる。「人間の価値は外見ではない」ということを、実際の人間関係のなかで、肌で感じてもらうという体験を積み重ねることである。ここでは、体型に意味があるかないかを論じるのではなく、本人が感じているきもちを周囲が一貫した言動によって肯定していく、ということが重要となる。
 「こんなことを知られたらきらわれるだろう」とおもうようなきもちをすこしずつ相手に打ち明け、受け入れてもらう、というプロセスを経ることができれば、「なにもいえずに抱え込む」パターンから成長し、相手にだいたいのことをいっても、受け入れてもらえるという信頼感をもつことができる。しかしながら、そのきっかけをなかなか失している人間にとっては、これまた途方もない旅路であると感じられよう。