未題

800字のコラム

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

福田和也『病気と日本文学』

“芥川は分裂病だったと言ったところで、何も彼らの真実に触れたことにはならない。” 自殺の問題は芥川に限らず、近代日本文学を語るうえで避けてとおれないテーマである。たとえば、イギリスは相続。フランスは借金。ロシアは信仰。ドイツは山。アメリカは幽…

福田和也『作家の値うち』

わたしは、批評が苦手だ。なぜかといえば、批評には相手の弱点を突く、という行為が必要不可欠だからだ。学生時代、「批評とは自らを棚に上げ、相手の矛盾を鋭く述べることである」という見解を記憶に残して以降、なんとなく、なにかを批評することの抵抗感…

『マネー・ショート』

いたい!とこころがぐじぐじ叫ぶ。まわりは笑っている、わたしはとても笑えない。現実を遠くへ追いやるほど、すべての悲劇は喜劇へと転じる。まさにそれだ、みんな、ジョークだとおもっているんだ。 真実を知りたい。奇麗な薔薇には棘があるよう、ひょっとし…

長嶋有『サイドカーに犬』

小4の夏休みが母の家出で幕を開けてから、突如我が家にやってきたのは「ようこ」と名乗る謎のおねえさんだった。ふつう、自己紹介をするときには名字を名乗るとおもっていたので、わたしはいきなり「ようこ」といわれ、衝撃を受けた。 “洋子さんが現れたのは…

福田和也『贅沢入門』

ついに閉ざされた過去と向き合うときがきた。記憶の彼方に残る彼の面影は朧気で、ほとんどその輪郭をとらえることはできない。 “若い人、とくに学生諸君などと話していて、よく子供のことを聞かれます。それも、わりと率直に「子供を産んで、何かいいことが…

『レ・ミゼラブル』

警部は死んだ。彼の揺るぎない信念はさらなる抱擁に打ち砕かれ、死んだ。こころが死んだのだ。こころが死ねば人間は、容易に死ぬことができる。彼は引き金を引かなかった。否、引けなかった。最期に引き金を引くのは人間の身体ではなく、そのこころだ。彼は…

『モテキ』

はじめはともだちのみゆきに誘われ、軽いきもちでついていった。きけば、ツイッターで知り合った幸世くんというおとこのこと、その会社のひとたちとの飲み会に参入するらしい。どうやら彼らはいまどきのIT企業で、ロックフェスなどの運営や、それにかかわる…

『中学生円山』

おとこのこの妄想に限界はないのでしょうか。わたしの両親がまだ付き合いはじめたばかりのころ、こんなやりとりがあったそうです。「なぜそんな体勢でテレビを見ているの?」「こうすれば、おねえさんのパンツを拝めるかもしれないだろう!」そこには、テレ…

『ルームメイト』

自分だけの妖精さんをつくりだしてしまうのは、実はよくあることかもしれない。それをべつの人物にまで昇華させるのはよっぽどの場合にしろ、どんな人間でも大なり小なり、べつの人格をひとつの器に生成するのは、よくあることだろう。もうひとりの自分。身…