未題

800字のコラム

『モテキ』

 はじめはともだちのみゆきに誘われ、軽いきもちでついていった。きけば、ツイッターで知り合った幸世くんというおとこのこと、その会社のひとたちとの飲み会に参入するらしい。どうやら彼らはいまどきのIT企業で、ロックフェスなどの運営や、それにかかわるひとびとの取材にも携わっているんだとか。すごい。みゆきはいつも、どうやってそういうひとたちと知り合っているのだろう。
 着くと、男性がたくさん集まっていて、わいわいと飲んでいるようすだった。そのなかにみゆきは、あたりまえのように溶けこんでゆく。わたしはそのなかでも、もっとも年配であろう男性のとなりに促され、座った。メニューを渡される。仕事のことをきかれたので、ミニカーのデザインをしています、とこたえるとひとりだけ、すごく喜んでくれるおとこのこがいた。その子が幸世くん、だった。
 そうしていつのまにか、わたしは幸世くんのことがすきになった。彼のあたたかさが心地よかったのだ。いつでも、コンプレックスの解かれるおもいがした。だから、幸世くんはみゆきのことがすきなんだ、という事実に気づいたときにはとても辛かった。一方、どこかで期待していたのだとおもう。不倫とはいえ、彼氏もちのみゆきだから。わたしは素直に、だれかに甘えたかったのだ。
 結果、ふられてしまったのだけどね。「重い」といわれて。体まで許したのにあんまりだ、とこころのどこかでおもったりもした。自暴自棄になって、なんとうえでかいた年配の男性と、寝てみたりもした。けれどぜんぜん、こころの隙間は埋まらない。それでわたし、やっとわかったの。すすまなくてはいけないのよ。わたしはわたしを、愛してくれない男のために変えるわけにはいかないの。
 ホテルを出たその足取りで向かうのは、明け方の吉野家。朝のひかりに包まれたべる牛丼は、格別においしい。どこか晴れ晴れとしたきもちで、お肉とごはんをかきこむ、かきこむ。お代わりまで頼む。そうしてまだみえない未来におもいを馳せながら、おもう。わたしはひとりで生きていこう。この痛みを噛みしめて、胸を張っていきていこう。わたしは、わたしなのだから。