未題

800字のコラム

福田和也『作家の値うち』

 わたしは、批評が苦手だ。なぜかといえば、批評には相手の弱点を突く、という行為が必要不可欠だからだ。学生時代、「批評とは自らを棚に上げ、相手の矛盾を鋭く述べることである」という見解を記憶に残して以降、なんとなく、なにかを批評することの抵抗感がいまだに拭えないでいる。
 しかし、批評への憧れのような感情はある。いわば盤面を見下ろす騎士として、戦況を観察できることはすばらしいとおもう。常人にはなかなか真似できない。わたしは、どちらかといえば共感性の高い人間なので、相手の弱点が霞んでしまう傾向にある。すると、いつのまにか客観的視点が抜け落ちてしまうのだ。

 そんななか、教授の批評はどこまでも相手との距離を保っているといえる。

 ある作家を「恥知らず」と一蹴した批評は、点数にして21点を叩きだしており、人前で読むと恥しい作品とまで揶揄されている。もしわたしが作家の視点で語るならば、こんな批評を受けたら死んでしまうのではないか、とおもうほどだ。
 しかし、これは教授の作家にたいする期待値の表れともいえるだろう。なぜなら教授は、同作家のべつの作品には、91点という非常に高い点数をつけているからだ。これは評価にして、世界水準で読み得る作品ということになる。

 わたし自身、作家の作品に点数をつける、という行為に賛同することはむずかしい。しかし、実際問題、だれかが批評を加えないことには、この世に文学賞は誕生しえない。作家の姿勢としては、善悪を超越した領域へと作品を昇華させるよう努めることが筋であるとしても、相対化されることによりはじめて、その作家の唯一性が保証されることもまた事実なのだ。
 本書には総勢100名の作家の批評がなされている。また、絞る過程で落としたものも含めれば約700点の作品について読了し、評価をおこなったのだという。これだけでも、つぎにどの作品をよもうか考えあぐねている人間にとっては、心強い指針になるのではないだろうか。